組織変革事例レポート(株式会社三恒さま) | 「MAT」は日々研鑽している中小企業診断士によるプロジェクトです。
組織変革事例レポート(株式会社三恒さま)
2019年8月8日

◆概要

株式会社三恒さまは、大阪市中央卸売市場で水産卸売業を営む会社です。鮭を中心に、様々な魚介類を扱っておられます。メーカーなどから荷受け経由で仕入れた商品を小売店、地方卸売市場量販店などに卸売販売されています。また、百貨店(阪急うめだ、阪急川西の2店舗)で魚の味噌漬けを販売されており、舌の肥えた多くのお客さんから好評です。昨年からは、自社サイトでの通販も始めました。また、食育イベントにも力を入れておられ、「ざこばの朝市」というイベントを9年前から年に4回、市場近くの公園で自主的に開催されています。
また、関連会社の株式会社サーモンズでは、能勢町で無農薬野菜の生産及び販売、農家民宿、沖縄での飲食店なども経営していて、とても意欲的な、伸び盛りの企業です。
そんな三恒さまですが、はじめからこのように順風満帆だったわけではありません。今のような形になるまでには、長い変革の歴史がありました。

 


ざこばの朝市

◆沿革から見る特長

もともと当社は、昭和9年に祖父・三上恒二郎氏が創業されました。その後、昭和47年に父・三上忠昭氏が2代目を継ぎ、今の三上正剛社長は3代目社長です。
三上社長は、大学生の頃から家業を継ぐ意思を持っておられたそうですが、卒業後は他の会社で経験を積みたいと考え、建材商社に入社されました。その後、広告代理店に転職し、3年間で様々な業務を経験されました。しかし、ある時、2代目社長(父)が末期がんを患っていることが判り、広告代理店を退職して、当社に入社されました。
 
社長に就任してからは、慣れない経営に懸命に取り組みますが、信頼していた番頭さんが独立し、それに伴い番頭含む5名の社員が退職してしまうなど、危機的な状況に直面します。結局残った従業員は、19歳と30代の男性パート社員の2名のみだったそうです。顧客は目利きのある仕入先から購入したいという考えがあるため、独立した番頭さんに何社かついていったこともあり、当時、売上も大幅に落ちました。
売上減少をどう回復するか考えた末、何か付加価値を付けなくてはと考え、それまでは原料のまま納品していたのを、原料で納品する値段そのままの金額で、切り身にして納入するようにしたそうです。この取り組みのお蔭で、継続して購入してくれる顧客や、当社が仕入れる分の鮭を年中確保してくれた仕入先が増え、周りにも大変助けられたと、今も三上社長は仰います。
 
その後、社長就任後4~5年で、従業員もパート込みで10人となり、売上も回復していました。危機の時期に会社に残ってくれた若い男性も成長し、稼ぎ頭となっていました。しかし、資金繰りを考慮して売上に上限を設けていたことから、その社員は「自分の実力ならばもっと売上を伸ばせるのに」と不満を感じ、退職してしまいました。この経験から、従業員が定着してないことに次第に悩むようになったそうです。
 
ちょうどそんな頃、大阪中央卸売市場の先輩社長から、同友会の中央市場例会に参加するよう勧められます。そこで、会社が目指す最終目標である経営理念が必要であると聞き、同友会の経営理念作成セミナーに参加されました。
こうした会合に参加するうち、それまでは三上家の存続のために家業を続けるという考えだったのが、「私利私欲ではなく、従業員が幸せになる会社づくり」を行おうと自身が変わることの大切に気づかれます。
そして、それを実践する経営に懸命に取り組んだ結果、従業員も辞めなくなったとのことです。

 


せり場外の清掃風景

この経験をきっかけにして、良い経営を目指す意識がより強くなっていかれました。そんな頃の取り組みの一つが「盛和塾」に参加したことです。この塾に参加している経営者は、向上心が非常に高く、とても良い刺激となったと、三上社長は仰います。
また、致知出版社の社内木鶏会を知り、自社でも行うことにされました。木鶏会とは、毎月各自が月刊誌「致知」を読み、気に入った内容を感想文に記し、4人1組で毎月1回1時間の間で発表し合うという取り組みです。
木鶏会を始めた当初は、多くの従業員が「社長が怪しいことを始めたぞ!」と疑っていたそうです。けれど、根気強く続けたことで3年かけて社内に浸透するようになり、今では従業員自らが積極的に参加するようになっています。また、近年では致知出版社の全国大会で表彰され、他社からの見学まで来るようになりました。
木鶏会の活動を始めてから社員の考えも変わり、従業員の提案で毎日の朝礼で経営理念と行動指針を唱和を行ったり、定期的にせり場・場外を清掃するようにもなりました。今では周囲からも元気のある会社と認識されるようになっています。

数年前からはビジョン作りのための1泊2日の合宿を行い、各自の目標をHPや名刺に掲載したりされています。

 


ひとりひとりが上記のような名刺を毎年作成

 

こうした取り組みと比例して、売上も順調に増加傾向です。取引先の売上も伸びており、大阪中央卸売市場で財務体質の一番良い会社を目指したいと夢を語ってくださいます。
また、付加価値を付け、BtoC向けの百貨店向け販売、ネット通販を強化したり、人材が育つ組織づくりをもっとしっかりさせていきたいと、目を輝かせて語ってもらえました。

強い絆で結ばれた社員の皆さん

 

◆インタビューを終えて

三上社長とのインタビューを終えて、私たちが特に印象に残ったことが二つあります。それは、三上社長の姿勢・考え方が素敵だということと、組織のあり方がしっかりされているということです。

1.三上社長の姿勢・考え方

三上社長は、3代目社長に就任後、社員達の退職などの危機を乗り越え、同友会や盛和塾に参加したことによって、自身の考え方も大きく変わっていかれました。同友会に入会するまでは、仕事終わりは毎日パチンコ・麻雀という生活だったそうですが、入会後は、自分自身が変わる事で従業員に意思を示さなくてはという考えに変わったとのことです。
また、ご自身の自己分析では、良い意味で周囲からの影響を受けやすく、自分が良いと思ったものは、従業員にも伝えたい・社内にも浸透させたいと考えておられるそうです。こうした、とても前向きで素直な気持ちを持っておられることが、今日の成功のカギと言えそうです。

 

2.組織のあり方

経営理念、ビジョンがしっかりと社内に共有されており、組織としての一体感を感じます。従業員の皆さんも、自ら進んで清掃活動や理念の唱和、ビジョン実現のための行動など積極的に取り組んでおられると感じました。
三恒さまが経営を改革できた背景には、こうした取り組みのお蔭ではないでしょうか。

 


三上社長(左から二人め)と当研究会メンバー

◆企業プロフィール

社名株式会社三恒
代表者代表取締役 三上 正剛
本社大阪府大阪市福島区野田1丁目1番86号 大阪中央卸売市場内
事業内容水産物の製造及び販売
設立昭和47年3月 (創業は昭和28年)
従業員社員15名、パート15名
経営理念私達は、いただきますの心を大切にし、日本の食文化を世界中、そして未来に伝え広め、全ての人々の食卓に笑顔と感動を創造し続けます。
関連会社株式会社サーモンズ (事業内容は、農産物の生産及び販売、飲食業)
ホームページhttp://www.santune.co.jp/