コロナ禍で描く長期ビジョンのすすめ
2021年5月20日

 本コラムを執筆している2021年5月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、第3回目の緊急事態宣言が東京・近畿の4都府県に発令され、その後、他地域にも拡大し、さまざまな活動が停滞・休止となり、大きな経済損失を招く事態となっています。

 

 もちろん好調なビジネスもありますが、数多くのビジネスが打撃を受け、経済情報を扱う媒体ではビジネスモデル転換の必要性が叫ばれ、行政施策としても「事業再構築補助金」をはじめ、ビジネスの思い切った再構築を促す支援策が打ち出されるなど、ビジネスそのもの自体の在り方を根本から見直す必要性が示唆されています。

 

 しかし、目先の考えだけで大きく舵を切ってしまうと、取り返しのつかない事態に陥ったり、将来のありたい姿がぶれてしまい、会社自体の存在価値をも見失ってしまったりする可能性があります。

また、短期志向で経営を行っていくと、長期的投資が不足し、その結果、企業価値が次第に薄れ、短期の利益も継続して生み出せなくなってしまいます。

大手コンサルティング会社のマッキンゼーの調査では、長期志向企業は短期志向企業より業績が高いことが指摘されています。「Measuring the Economic Impact of Short-termism」(2017年)

 

 今回のようなコロナ禍での大きな消費変化や、世の中の変化スピードが速い時代では、自社の競争優位は時代に対応しきれなかったり、あっという間に模倣される・追い越されるなどして、長期に渡り保つことは困難です。そのため、外部環境に応じての柔軟な対応が必要なのはいうまでもありません。

しかし、先述したように、将来を見すえることなく目先ばかりにとらわれていては、5年後も10年後も選ばれ続ける企業として存続することは困難です。

 

ソフトバンクグループ(株)は現在業績好調な企業ですが、代表取締役 会長兼社長執行役員の孫氏は30年先を見て手を打つことを述べています。また、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は2060年代までに100万人を火星に移住させる壮大な計画を立て、スペースXを2002年に創設し、大胆で課題が多いとされつつも2021年の今、その計画を1つずつ成し遂げています。

 

 複雑で予測不能な時代として表される“VUCAの時代”(※注1)では、今までの経験や単なる勘だけでは乗り越えられず、また、ち密に計画を積み上げ方式で練り上げたとしてもそれが実現できる保証はありません。こんな時代だからこそ、将来のありたい姿を今一度思い描き、それを実現する存在価値は何なのかをとことん考え、その目標に到達するために今何をすべきかといったバックキャスト思考で長期ビジョンを描くことをお勧めします。

もちろん、3ヵ年計画といった短期計画も足元を固め存続していくためには必要ですが、その都度変化が起こる外部環境下では、修正しながら進めていくことが重要です。めざすべき姿を描き、そこに向かう道筋を短期計画で修正していく。そういった未来志向型企業の在り方が今求められています。

 

 2018年に内閣府は「経営デザインシート」(※注2)の活用を推奨し、価値創造デザインを推進しています。まずは手始めに、このフレームワーク(「簡易版」が簡単に描けるため、お勧め)を使い、自社の長期ビジョンを描いてみてください。自社の「今」と「これから」を描くことで、将来に存続する自社の未来を手に入れてください。

このような時代だからこそ、ぜひ試行してください。

 

※注1:VUCAの時代とは

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性) の頭文字からつくられた造語。複雑で予測不能な時代と表される。

 

※注2:経営デザインシートとは

将来を構想するための思考補助ツール(フレームワーク)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html

 

大西 眞由美

Mayumi Onishi