BCP(事業継続計画)策定の効果
2021年9月1日

 近年、全国各地で集中豪雨や土砂災害による被害が発生しています。また、新型コロナウイルス感染症などの自然災害以外のリスクも顕在化しています。
 このような社会情勢の中、令和元年5月、中小企業の自然災害等への防災・減災対策を促進するための法律「中小企業強靭化法」が成立しました。この法律では、防災・減災に取り組む中小企業が、その取り組みを「事業継続力強化計画」としてとりまとめ、その計画を国が認定する制度が定められています。

 

 こうした後押しを受けて、企業においてBCP(事業継続計画)策定の機運が高まりつつあります。㈱帝国データバンクが2021年5月に実施した調査(※)では、BCPを策定済みの企業は大企業で32.0%(前年調査時30.8%)、中小企業で14.7%(同13.6%)となっており、大企業と中小企業で策定割合に差があるものの、全体的に増加傾向にあります。
※ https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210604.html

 

 この調査では、BCP策定済みの企業に対して「BCP策定の効果」を尋ねています。その回答の上位3位は次のとおりです。

 

 1位:従業員のリスクに対する意識が向上した(55.5%)
 2位:事業の優先順位が明確になった(33.4%)
 3位:業務の定型化・マニュアル化が進んだ(33.0%)

 

 1位は、例えばハザードマップで「自社が津波浸水想定2mの地域にある」といった事実を確認したことで、これまで他人事だった災害を自分事としてとらえるようになったためと考えられます。また3位は、公共交通機関が使えなくなったり、感染症にかかったりして、特定の業務を担う従業員が出社できなくなっても、他の従業員がカバーできるように対策を進めた結果でしょう。

 

 注目すべきは2位です。
 BCPでは、会社の存続に関わる重要性の高い事業を「中核事業」(「中核商品」や「中核顧客」とする場合もあります)と定め、その継続・早期復旧を実現する取り組みを記載します。災害時には、被災によりヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源が限られるため、経営の「選択と集中」がより一層求められるからです。
 この中核事業を決めるためには、その事業の収益性や取引先との関係性、将来性などを把握する必要があります。これらを普段から把握している企業にとっては簡単ですが、そうでない企業にとってはなかなか大変です。ですが、それらを把握するからこそ自社の方向性が決まり、事業の優先順位が明確になるのです。

 

 BCPは災害等に備えて策定するものですが、上述のように事業の優先順位の明確化など、平時の経営力強化にもつながるものです。
 自社の経営資源や強みを把握することは、災害だけでなく、様々な変化にも強くなります。

井上 陽介

Yosuke Inoue